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GeoMxユーザーインタビュー

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Fumiyo Kurokawa on January 21, 2022
岡山大学病院ゲノム医療総合推進センターの遠西大輔先生に、ご研究やバイオバンクプロジェクト、さらにがん研究での空間発現解析のポテンシャルなどを伺いました。

空間プロファイリングのデータで得られた知見を、臨床で利用できる簡単なアッセイに落とし込みたい

岡山大学病院ゲノム医療総合推進センター血液・腫瘍内科
研究教授 遠西大輔先生

様々ながんで空間解析をしていこうというのが、次のプロジェクトのビジョンです。

―この度は、AMED「令和3年度ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(次世代医療基盤を支えるゲノム・オミックス解析)」1のご採択おめでとうございます。
先生のご専門である血液腫瘍のご研究についてお伺いできますか?

私は2011年からバンクーバーで悪性リンパ腫の研究しておりまして、私の同僚であるDavid Scott氏が、2013年頃にホジキンリンパ腫の論文でnCounter®2を使ってJournal Clinical Oncologyに論文を出し、今はClinical Trialに使われているLymph2Cx assayを開発しました。彼と一緒に仕事をする機会があったので、自然と私もnCounter®を用いて悪性リンパ腫のトランスレーショナルリサーチに取組んでいました。今も私のバックグランドは悪性リンパ腫およびがん研究ですので、大学でもがんに関わる先生方との連携の中でnCounter®を使用しており、今はGeoMx®3やシングルセル機器などの先端プラットフォームによる空間解析を目標にしています。様々ながんでGeoMx®を使って空間解析をしていこうというのが、次のプロジェクトのビジョンです。

AMEDの日本人のゲノム・オミックスデータベースの基盤整備で採択されて光栄です。

―今回のAMED採択課題が、慢性閉塞性肺疾患となった経緯を教えてください。

なぜCOPD (慢性閉塞性肺疾患) をプロジェクトのテーマに選んだのかという点ですが、今回のAMED課題は、センター同僚の冨田秀太先生から一緒にやろうとお話をいただき、その課題というのが「マルチオミクス解析を用いた、がん及び難病以外の疾患」を対象とした募集でした。我々が得意としているがん領域ではありませんでしたが、病院としても取り組みたい課題でしたし、導入したGeoMx®を最大限活用したいと思っていましたので、これまでの病院内の各専門科との連携の中で、COPDはどうだろうかと提案したのがきっかけです。

このプロジェクトには、岡山大学内外の多くの先生方にご参加いただいており、冨田秀太先生と私の他に、COPDの臨床的な専門家として呼吸器内科の保健学域検査技術科学分野 宮原信明先生と川崎医科大学 小賀徹先生、バイオバンクとしてヘルスシステム統合科学学域の森田瑞樹先生、実際に検体を提供してくれた呼吸器外科がご専門の新医療研究開発センター 枝園和彦先生、腫瘍微小環境学分野の富樫庸介先生が関わっています。日本人のゲノム・オミックスデータベースの基盤整備で、大きなプロジェクトに食い込むことができたのはとてもうれしいです。

岡山大学病院ゲノム医療総合推進センター 准教授 冨田秀太先生(右)と同センター   河井友香里先生(左)
GeoMx®デジタル空間プロファイラー(左手前)とnCounter®システム(右奥)

微小環境が一つのキーワードで、空間解析に向かったのは自然な流れです。

―がん医療では融合遺伝子も重要なマーカーとして注目されていますが、がんパネル検査はDNA変異解析が中心のように思います。今後発現解析の重要性が広まっていくのでしょうか?

現在最先端のゲノミクス解析では、シングルセル解析ができるようになりました。しかしシングルセル解析で得られた細胞群が、腫瘍のどこに局在し、どういうネットワークにいるのかは、まだよくわかっていないので、それを知りたいと思っており、空間解析機器は非常に有用な方法だと思います。微小環境が一つのキーワードになっていますので、空間解析に向かったのは自然な流れです。

―海外の学会等でがん関連の発表をみると、空間解析が急速に広がっており、研究の流れが大きく変わってきている印象を受けています。日本でも、今後空間解析は広がっていくのでしょうか?

がん免疫微小環境を見ようとしたら、トランスクリプトが注目されるのは必然です。がん免疫のメインプレーヤーは正常な免疫細胞で、そもそも変異は起こっていませんから、遺伝子変異だけでは現象を捉えられません。遺伝子およびタンパク質発現というレベルで、正常な免疫細胞の役割を見るのが、がん免疫に関わるトランスレーショナルリサーチの一つの主流になっています。これまでは、遺伝子の変異でがん免疫療法の予測因子を見つけようとTumor Mutation Burden (TMB) やMicrosatellite Instability (MSI) が重要視されてきましたが、それらだけではがん免疫療法のバイオマーカーとしての意義づけは難しいということがわかってきています。今、岡山大学でもがん遺伝子パネル検査を実施していますが、どれくらいTMBがあったら、どのがん種でどれだけ効くのか、というところの結果がばらついているため、TMBが免疫チェックポイント阻害剤の効果予測マーカーになるかは難しいと思っています。

TMBはネオアンチジェンのマーカーですが、腫瘍内での免疫環境は様々な要素でコントロールされていますので、それならば免疫環境そのもののトランスクリプトームやプロテオミクスを見て、バイオマーカー化しようという流れになってきていると思います。

TMBだけでなくトランスクリプトのデータも組み合わせることで、より精度の高いバイオマーカーパネルになると考えています。

―チェックポイント阻害剤のバイオマーカーとして、検討すべき課題は何でしょうか?

Clinical Sequenceを行い、見いだされた遺伝子の変異解析データから、臨床で一番手に入りやすいのがMutation Dataなので、TMBを免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーにしようという動きでした。しかし、TMBが100であれば、その患者の薬剤投与の効果はかなり高いと推測できますが、例えば、ある薬剤の投与判断のカットオフ値がTMB10以上であったときに、9と10とはどれほど違いがあるのか、と考えると非常に不安定なマーカーです。

そういうことを鑑みると、免疫細胞を定量することは、もちろん大事であり、さらに、免疫細胞と腫瘍細胞の位置関係もがん免疫療法の効果予測に重要であることが分かってきています。TMBだけでなく、空間情報を持たせたトランスクリプトのデータも組み合わせることで、より精度の高いバイオマーカーパネルになるのではないかと考えています。

現在の課題は、トランスクリプトーム解析を、臨床現場に橋渡しする研究が遅れており、まだ研究レベルでしか重要視されていない点です。ですから、GeoMx®のような空間プロファイリングで得られたデータを、臨床でも使える簡単なアッセイに落とし込むことを考えています。

形態学的マーカーの染色像から、自分たちが「見たいところだけ」をピックアップできるGeoMx®のアプローチを活用しています

―空間プロファイリング解析装置として、GeoMx®を選定いただいた背景を、よろしければご教示ください。

GeoMx®の便利なところは、任意の場所から、トランスクリプトームの情報が取得できるという点です。変化に富んでいる腫瘍、つまり複雑な構造で入り込んでいる腫瘍では、例えると地図で山の部分を取ってくるようなイメージですが、見たいところだけを選択できた方がクリアにデータを取ることができます。メッシュでとってくる手法では、変異部分の見たいところと見なくてもいいところが混ざってしまう現象が起こり、解析能が落ちてしまう場合があります。自分たちが、「見たいところだけ」を、ピックアップして、更にセグメンテーション処理により、腫瘍形質部分とその周辺環境部分の境界に輪郭線を引き、それぞれの分画から情報を取るというようなGeoMx®のアプローチを活用させていただいています。

もう一点は、形態学的マーカーで染色できるという点です。今COPDの検体を扱っていて、一見”のべー”と見える検体が、染色すると島のように見えてくる場合があるので、形態学的マーカーをうまく活用して一見区別ができなくても浮き上がってくるような方法を試行錯誤しているところです。

―将来的な研究室の未来図の中で、学内ひいては学外コアラボの構想もあると伺いました。研究室の今後の展望をお伺いできますか?

我々だけでこの装置を使っているのはもったいないですので、まずはしっかり検証して条件が整ったら、我々チームだけでなく、院内の先生方にも使っていただき、その延長線上で、例えば中・四国、あるいは場所に関わらず共同研究のような形で使っていけるとよいと考えています。新しい機器のライフスパンは非常に短く、2-3年で古くなる時代なので、スピード感をもって進めていく必要があると思っています。

―橋渡し研究のところでGeoMx®が医療に貢献していくのは、我々としても大変うれしいことです。多くの施設で導入されれば、コストを下げていけますので、それによって、空間プロファイリングが広がっていけばと期待いたします。
本日は誠にありがとうございました。

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注釈リンク

  1. AMED「令和3年度ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(次世代医療基盤を支えるゲノム・オミックス解析)
  2. nCounter 製品ページ
  3. GeoMx 製品ページ
Post by Fumiyo Kurokawa